捨て身

今日あるスタッフに、◻︎◻︎さん鋼鉄の心を持ってるからね。冷たい鋼鉄(笑) と言われた。


その人としては、私が強い心を持っている、と褒めてくれていた。最後の 冷たい~ は気安さから出た冗談。社内でも、クセが強くて少々パワハラまがいのことをしてしまう専門職の人に、私が意見を言うことを指して言った言葉。

私は去年一年間その人と外回りで現場に行っていたのだが、本来営業である私が現場に出るようになったのは、他のスタッフが誰もその人と一緒に現場を回るのが無理だということになったから。ある人は言葉が厳しすぎて無理だと言い、また新人であるにも関わらず常に120%の仕事を要求し続けられるからだという人もいる。散々怒られ、怒鳴られて、皆がその人と回るのが無理だと言う。そうしてお鉢が回ってきた。

結局私も怒鳴られ、当り散らされ、なんとか無茶な欲求をこなしてきた。人から苦労を労われるたびに、俺はガラスのハートやけど、割れたらすぐ次のが出てくるアンパンマン方式やから と茶化して苦労を笑えるように努力してきた。

スタッフもやがて全く入れ替わり、徐々に引継をしてもうすぐ営業に戻れる…といった矢先の「貴女の選択」だった。

その一年は身体も辛く、帰宅時間も遅く、寂しい思いをさせていたように思う。精神的にも疲れ、貴女に気遣うことも少なかったように思う。それ以前は営業で帰宅も早く、駅で貴女と合流して外食したりしてたけど、そういうこともできなくなっていた。


俺がもっと弱い心の持ち主だったら。早々に自分も音を上げて、白旗を上司に示していれば。仕事の観点からだけ見れば、それは不可能だった。私以外の誰もが白旗を上げきった後で、誰も後ろには控えていなかった。結局週五日、その人と回る。今は日替わりで色んなスタッフの人が回るようにしている。現在のスタッフには感謝の限り。



鋼鉄の心、かどうかはわからないけれど、冷たいという言葉は当たっているかもしれない。心の、根本の部分で私は冷たいのかもしれない。

貴女には暖かく接せていられたかしら。どこかで冷たさを感じてはいなかっただろうか。




□□さんしか、あの人には意見できない。そう言われる。あの頃は、家に貴女が居たからできた。どうなろうと私には貴女がいる、そのことが私の活力源で、最終的な砦だった。そのおかげで、私は鬼にもなれたし悪魔にもなることができた。

誰に何を思われようが、貴女が居る。なんと頼もしいことだろう!


しかし今、私には貴女は居ない。よくよく考えてみると、今の私には守るべきものは何一つない。守るべきものを失った、捨て身の人間。捨て身の覚悟、とはよく言うけれど、覚悟のない捨て身ほど困ることはない。


辛うじて物欲によって現世とのつながりを保っている私に、いかほどの覚悟があろう。

貴女を追う覚悟もなく、生き抜く覚悟もない。捨て身の一生。



他人まかせで恐縮だけれど、誰かに捨てたこの身を拾ってほしい。