雨粒ひとつ

洗濯をする。雨が降っているので部屋干し。リセッシュを振りかけ、扇風機の風を当てて生乾きのにおいを残さないようにする。


頭がボサボサになっていたので散髪に行く。貴女が居なくなってから、3度目の散髪か。分かっていることだけれど、褒めてくれる人も、バカにしてくれる人も居ない。散髪の時期をできるだけ延ばすため、あとサイドがよく盛り上がってしまうので短めにしてもらったところ、思ったより短く、子どもっぽい短髪になってしまった。目が極端に悪く、三発中はメガネを外しているのだが、切り終わってメガネをつけてからの一瞬で そのままでいいか、さらに切り込むのかを判断しなければいけない。毎回、この一瞬の判断を間違ってしまう。


その後、選挙に向かう。選挙場所に向かうには、貴女が一時居た斎場の前を通らなければならない。また、この選挙場は貴女と一緒に行ったことのある場所。選挙に行くのにワクワクしていた貴女。楽しい想い出と哀しい想い出の交差する道。
歩いていると、自然と思い出される貴女がそうなってしまった分岐点の数々。貴女が事故に遭った時、職場の人間からの無礼でモラルの欠片もない長電話。事故に遭って混乱しているだろう本人に、仕事論や社会人論を延々と。私が迎えにいった時には既に延々と電話をしていて、車で家に着くまでの一時間近くの車中でもずっと。あの時、何故私は、貴女の電話を奪い相手にその非常識を罵らなかったろう。ドライブが好きだと言う貴女に、事故後の混乱した頭を癒すために、楽しい車中を味わわせることができなかったのか。



夜になると、雨脚が徐々に強くなってきた。早めに外に出かけててよかった。
マンションの廊下で煙草を吸う。雨が風に吹かれて、廊下や階段の方にまで吹き込んでくる。奥に引っ込んでいても雨は一粒、一粒と顔に身体に吹きかかる。
屋根から伝う大きな水滴が、一粒、一粒と目の前を通り過ぎる。
雨は神様の涙だと言う。悲しみの涙か、嬉しみの涙か。
亡くなった人を仏になり、また神になると言う。としたら、この雨粒の一つくらいは、貴女の涙なのだろうか。そう思うと、この雨粒一つ一つがとても愛おしい物に思えてくる。貴女の涙は、悲しみの涙なんだろうか。それとも、別の感情の迸りなんだろうか。


私はここに居て、雨粒を身体に受ける。貴女の涙を、受け止める。
感動屋で、感受性の強かった貴女だから。空でもたくさん泣いてるのかもしれない。
それなら雨を厭わず、私は過ごしていこうと思う。
今日も雨、明日も雨。貴女が泣くなら、私は静かに涙に打たれよう。