ドアの向こう側

仕事に手応えを感じた時、職場での会話が楽しかった時、そんな時には注意しなければならない。トイレにでも入って、ふと周りと遮断された時に、こんな満たされた気持ちになっているのに、帰っても貴女に会えないことがとても不思議に思えてしまう。途端には理解できないでいる。そして改めて、どんなに私が今から充実しても、また充実しなくても、私が貴女に会えるとこがないという事実がひしと襲いかかる。充実の度合いが大きかった分だけ、貴女のことを目の前に置いていなかった時間の分だけ、とても重い打撃をもって、私にそれは襲いかかる。


そんな日は、玄関の鍵を開ける時にも注意しなければならない。ドアを開いても、貴女は決して待ってはいてくれないのだ。そのことを頭でしっかり考えなくては、ドアから貴女との日常に戻れるような気がしてしまう。

貴女が居ないことが、私の単なる最悪の想像でしかなかったかのように、ドアを開けると幸せが待ってでもいてくれるような錯覚をしてしまうのだ。


玄関の戸を開いても、リビングの扉を開けても、そこは真っ暗闇。誰の息遣いも、体温も感じられない。冷たい部屋が待ち受けているのだ。


覚悟しなければいけない。

勘違いをしてはいけない。

思い違いを、決してしてはいけない。


貴女はもう、居ないのだ。


どれだけ覚悟を決めて戸を開いても、違和感は拭えない。


寝ているのか? そうではない。

出掛けているのか? そうではない。

居ないのだ。どこにも、居ないのだ。


私は毎日、覚悟を決めて、扉を開いていかなくてはいけない。

勘違いをしてはいけない。どの扉を開く時も、かならず覚悟を決めてドアノブを回さなくてはいけないのだ。