薔薇、一輪

薔薇を買った。


一年前の今日、貴女はディズニーシーのバレンタイン企画で初めて販売した薔薇を買いたくて。

一年前の今日、火曜日だった。私の休みの日。ディズニーシーに2人で行った。貴女は事故の影響で、歩くのが痛くて痛くて。前からの貴女の希望で、園内で車椅子を借りた。私は貴女の乗る車椅子を押して、貴女の望む所へ歩いて行った。ショウも観た。お土産も買った。そして薔薇を二輪。

そのうちの一輪は貴女と共に灰になり、もう一輪はしばらくの間私の部屋で生きづいた。


いま私の目の前に、その時に撮った貴女の写真。撮った時には、それが遺影になるなんて思いもせず、ただただ楽しそうな嬉しそうな幸せに満ちた貴女の一瞬を切り取った。その写真の後ろには、今日私が買った薔薇一輪。

けど、ごめんね。貴女の好んだ大ぶりの薔薇がなかったよ。スプレーバラ、可愛くて小さな花や蕾が枝分かれしている。

けど、貴女の好きな真っ赤な薔薇よ。貴女が好んだ口紅の色みたいに、深い真紅の、綺麗な薔薇よ。



ほんの一年前には、楽しさと幸せに満ちていた。貴女が目の前で笑い、目の前で戯け、目の前で私にその声を聞かせてくれた。

ほんの2日後に、貴女の声がもう聞けなくなるなんて想像すらしなかった。たった5日後に、貴女が嬉しそうに手に入れた真っ赤な薔薇が、色味のない灰色の粉になってしまうなんて考えることすらできなかった。

これは、考えを及ぼせなかった私の罪。慮れなかった私の罪。


最近、眠りに就くか就かない朦朧とした瞬間に誰かが私に話しかけてくるような空耳が聞こえてくる。友だちだったり、知り合いだったり、はたまた知らない誰かの声であったり。だけれど、貴女の声は私の耳に届かない。幻聴ですら、貴女は私にその声を、透き通った、玉をころがしたような、愛らしいその声を聞かせてはくれない。